私たちの話2022 / 08 / 07

研修日記 生活訓練・就労移行支援・就労定着支援 (CAREER PORT ほんまち)

~植物作り 地域の一員として~

5月24日、CAREER PORTほんまち研修1日目。

CAREER PORTほんまちは、諫早市アエル商店街の一角にあるベージュの建物「Career Design Support AeR(キャリアデザインサポートアエル)」内にある、知的・精神・発達など、様々な障がいを持つ方々の「働きたい」を支援する場所。

支援のカテゴリーは、就労前(生活訓練)、就労移行、就労後(フォローアップ)の大きく3つの段階に分けられる。

今日の研修は、生活訓練・生活力アップコース。
主に、知的障がいを持つ、特別支援学校の新卒者が、約2年間の訓練を受講し、自分の出来ることを増やしていく。
例えば、アーケードのゴミ拾い、植物への水やり、硬貨の組み合わせ練習、買い物、身だしなみの確認、調理実習など、やることは幅広い。

生活力アップコース職員は、利用者の母親から「(子どもと一緒に)買い物に行ったときに、税込みと税抜きの違いを説明されて、成長を感じてびっくりした。」と聞かされたとき、大きな喜びを感じたという。

「ここで訓練したことが彼らの自信につながればいいな」。

午前中の活動は、プランターの土ふるいと、紫陽花の雑草取り。
生活力アップコースの5人は、本町と栄町アーケードのプランターの管理を任されている。年2回、6月と11月に諫早市から植物の種を受け取り、アーケードに設置する。
炎天下の中、利用者のMさんとSさんは、土ふるい作業を始めるため、ビニールハウスから大きなプランターを運んできた。しかし、置いた場所は日陰ではなく日向。
「これじゃ、暑いですよ、日向で作業するんですか?」
職員が度々、問いかける。

紫陽花の雑草をとる3人

一方で残りの3人は、先に紫陽花の雑草とり。

早めに終わらせて、設置が来月に差し迫っているという土ふるいに急いで着手しなければならないが、この3人は、いつまでも雑草とりに集中していた。

見かねた職員が、「今、何をしているんですか」と問いかける。

彼らに求められているのは、報告・連絡・相談。

先の見通しを持って、逆算して、今やるべきことをしなければならない。このコースは、将来的に就労移行に進むことが出来るように訓練するのが目的。

自分で気づき、考え、行動する必要がある。

プランターを日陰に移動させ、全員が集まり、土ふるいが始まった。
ふるった土は、腐葉土と混ぜて新たにプランターの土にする。

土ふるいをするMさん(写真左)と、Sさん(写真右)

もくもくと取り組むMさん。
今まで何度もアーケードを歩いたことのある私だったけれど、誰がやっていたのか、考えたことはなかった。
「作業中に地域の人から話しかけられることはありますか?」と聞くと、

「お疲れ様」と挨拶されることはあるという。

Mさんは「挨拶されたら、うれしい、けど、(挨拶を)返すのは、恥ずかしい」と苦笑いを浮かべる。

5人が世話をしているプランター=諫早市栄町アーケード

この作業で身につけたい力は、花をきれいに植えることだけではなく、地域の人たちとコミュニケーションをとって、地域社会の一員としての自覚を持つことである。

彼らは、2年間の中でそうしたスキルを徐々に身につけ、その先の就労移行へと進んでいく。

 

~あいさつ・声かけ 利用者さんに学ぶ~

5月25日、ほんまち研修2日目。

今日の午前の研修は就労移行支援の基礎訓練重視コース。

生活訓練を終えた人や、一度働いてみたけどうまくいかず、再出発したい人が、職場実習に取り組み、本格的に就労への意識を高めていく。そのため、20代から40代くらいまで、年代は幅広い。

午前の活動は杵の川(酒屋)での実習。

5人の利用者さんと職員と杵の川に向かった。酒屋らしい白塗りの店の入り口で、一人が「おはようございます。よろしくお願いします。」と深々と一礼。そのあと皆で一斉に入るのかと思いきや、一人一人順番に社員さんの目を見て、挨拶をしている。

大学生のころ、企業インターンシップに参加したことがあるが、ここまで礼儀正しい挨拶はしたことがなかった。

「私も見習わないと」利用者さんの真剣な表情に、思わず背筋が伸びた。

店から倉庫に移動し、社員さんから段ボールを組み立てる作業を依頼された。

段ボールの表面にシールを貼り、組み立て、底をガムテープで止め、中に仕切りを入れる。

シールは枚数が少ないため、なくなってもそのまま箱作りを進めてもらって構わない、と説明を受けた。

さっそく、「シールをはりたい人―?」という声が上がり、他にも組み立てる人、ガムテープで止める人に分かれて、作業が始まった。

様子を見ていた職員は、「シールの場所は指2本くらい空けて」と、アドバイス。

作業場所が狭くなると、テーブルを運んできて、スムーズに進められるようにした。

順調に進んでいたように見えるも、シールを貼る係だった1人が、社員さんの方に向かって行った。職員が彼の後を追いかけて話を聞くと、新しいシールをもらおうとしたのだという。

どうやら話を聞いていなかったらしい。

職員は、「5人という集団であることから、自分が聞いていなくても、他の誰かが聞いていればいい、と油断していたのかもしれない。」と話す。

一方で、他の人たちは、脇目もふらずに没頭。

自分のところの段ボールがなくなっていくと、近くの人のところへもらいに行く。

「これもらって行きまーす」「どうぞー」「あと5分で休憩です」

集団で活動するとき、声の掛け合いは、とても大事になってくる。そうすることで、ミスを未然に防ぎ、状況把握もしやすい。そばで見ていると、いろいろなことに気づかされる。

利用者さんに学ぶという姿勢、これを心に留めておきたい。

 

~喜び持って働き続けるために 伴走~

5月26日、ほんまち研修3日目。

今日お話を伺ったのは、フォローアップ支援担当の職員Nさん。

フォローアップ支援とは、生活訓練や就労移行支援を経て就職を果たした人や、特別支援学校を卒業して就職した人が、継続的に勤務できるように、利用者と企業との間に立ち、困り事や悩み事を解決していくもの。

就労定着支援と、ジョブコーチ支援の2つに分かれている。

就労定着支援の利用期間は最大3年間。

大きな音や声が聞こえると、怒られている、と勘違いするなど、メンタル面や、職場での人間関係に不安を感じるという相談が多い。

利用者が月に1回、ほんまちを訪問して面談を受けることもあれば、逆に職員が午前に企業の責任者と面談し、その内容を踏まえて午後に利用者と面談することもあるという。どちらかと言えば、後者の方が多い。

定着支援の特徴は何か。一言で言うと、会社との交渉。

人と話すことが好きで、明るく、社交的な人が向いている仕事かもしれない。

一方で、ジョブコーチの利用期間は、1年3か月。

特に、企業の方が障がい者への対応に慣れていないときに利用する。

Nさんは、コスモスを例に話を進めた。

「コスモスには、障がい者を1店舗に1人配属する、という決まりがあります。

でも、障がいに理解のある店長であればいいけれど、必ずしもそうとは限りません。

そんなときは、店と利用者の間に立ってうまく回るように取り計らいます。

例えば、就職初日は、実際に私が店舗に出向いて、利用者さんと一緒に業務を行います。

店の前で待ち合わせし、従業員専用の入り口から一緒に入り、暗証番号を入力するところから始まります。

ペットボトルの陳列では、利用者さんが片手で一本ずつ持って陳列しようとしたら、すぐ止めて、両手で2本ずつ持ってするように声をかけます。

あと、昼休みの過ごし方では、どのような空間で食べるかや、パート従業員との距離の取り方も教えます。」

ここまでマンツーマンの指導であれば、利用者さんも安心するのではないだろうか。

支援が最も必要な最初の3か月(4月~6月)は、集中支援期間とも呼ばれている。

就職後すぐは、週1回、2回の割合で支援に入るが、慣れてくると月に1回の割合になり、その後徐々に利用回数が減ってくるという。

ジョブコーチの魅力は、何といっても、たくさんの企業の内部を知ることができること。

利用者さんの動きを見ているうちに、その企業で働くことができるほど、仕事の手順を覚えるからだ。

「私は、ここと、ここと、ここで、働けるかな」と笑いながら指折り数えるNさん。

好奇心旺盛な人が向いている仕事かもしれない。

また、ジョブコーチとして支援者になるには、「職場適応援助者」と呼ばれる資格が必要になる。南高愛隣会は、毎年一週間程度、同資格取得のための研修を開催している。全国の就労移行事業所、B型事業所に案内文を出し、九州・全国から35人程度の参加者が集まるという。

研修を企画するのは、九州では愛隣会のみで、Nさんがその担当。

しかし今年は、10月から長崎刑務所のモデル事業が始まるため、その事業で忙しく、研修の開催は断念した。

「今年もやれたらよかったのに」と残念そうな顔を見せるNさん。

長崎刑務所のモデル事業では、受刑者を一般就労・就労継続支援B型・生活介護の3つのグループに分けるという。Nさんは、一般就労グループの「ジョブトレーナー」として支援を担当する。

働くことは、私たち皆が持つ権利である。自分のやりたい仕事を見つけ、その通りに実現できる人は、ほんの一握りかもしれないけれど、仕事があって、自分がそこに必要とされている事実は誰にとっても、もちろん受刑者にとっても、かけがえのない喜びである。

少しでも利用者さんが居心地よく、喜びを持って働き続けられるように伴走するこのお仕事は、とても充実したものであるに違いない。