研修日記 職業訓練 (長崎能力開発センターポステック科)
~自分を知ること目標に~
5月30日、長崎能力開発センターポステック科研修1日目。
今日の研修は、ほんまちと同じく「Career Design Support AeR」内にある長崎能力開発センターポステック科。
長崎能力開発センターには、知的障がいの方に向けた「麵製造科」と、発達障がいの方に向けた「ポステック科」の2つの学科がある。入校選考試験に合格した高校、専門学校、大学の新卒者が2年間のカリキュラムで、就職に向けた基礎訓練を行う。2年次になると、約10万円程度の訓練手当が受給できる。
1年次では、自己理解を深めること、2年次では、相手の立場に立って自己発信することを目標とする。今日は1年生が6人、2年生が2人。
集団としての帰属意識を高めるため、全員、黒のスーツに身を固めている。
9時から朝礼。
1人の訓練生が、職員に「9時になったので、朝礼をはじめます。」と報告する。
「起立、気をつけ、礼」
「おはようございます」
朝礼では、まず初めに昨日の出来事と今日の気分を順番に発表していく。精神・発達障がいの方は、自分の気分を自覚することが難しいため、皆の前で表現するという訓練を行なっている。
次に今日の予定の確認。
1年生、2年生のリーダーがそれぞれ発表する。最後に、全員で唱和。
「訓練生同士では、◯◯さんと呼びます」
「訓練時間は敬語で話しましょう」
同じくらいの年齢の若者が集まって、最初は学校の教室のように見えてしまうかもしれないが、きびきびとした、メリハリのある雰囲気であるため、全くそうは見えない。
1人の訓練生が職員に「掃除に行ってきます」と報告する。しかし、職員は別の訓練生と話しているため、気づいていない。
もう一度、大きな声で呼びかける姿に、思わず「そこまでするんだ」と驚いてしまった。
職員のIさんは「ここでは、報告、連絡、相談を大切にしている」と力を込める。
Iさんも以前は、報告の回数が多いことに疑問を感じた時期もあったという。しかし、減らすことは簡単だけれど、増やすことはその何倍も難しい。こまめな報告を行う癖をつけておくことで、将来、就職したときに、間違いを減らすことにつながる。
午前の活動は、ビジネスマナー。
上司、同僚、部下など、会社にいる様々な立場の人と会話するには、どんな言葉遣いがふさわしいか、考えていく。
クッション言葉について考える訓練生
今日新しく学んだのは、相手に話しかける時や、お願いする時に相手を気遣うクッション言葉。
どんな言葉があるか、思いついた人が発表していく。訓練生から出てきたのは、
「お仕事中失礼します」「すみません」
一方で、出てこなかった言葉は、「今、お時間よろしいでしょうか」「お手数ですが」
この活動には、今のうちにできるだけ多くの言葉を引き出しに入れて、できる仕事の幅を広げ、職場で良好な人間関係を築いていってほしい、という職員の気持ちが込められている。
午後の活動は、SST(ソーシャルスキルトレーニング)で、主に電話対応の練習。
気をつけることは
・話の内容や言い方の工夫
・声の調子や大きさ
・体を使った表現
・視線、表情、身振り、姿勢
全員で輪になって座り、順番でロールプレイを行う。
場面設定は、「バスが遅れているため、到着時間に間に合わない」という報告を上司に行うというもの。
1人がやり終えると、それに対して、良かったところ、良くなかったところを発表していく。
「ゆっくり落ち着いた声で言っていたところがよかった」「声のトーンがよかった」
など次々と手が上がっていく。職員も「会話の途中で、つなぎの言葉が入っていてよかった」とほめる。
一方で、良くなかったところ。「遅れた理由の説明が長かった」「言葉遣いが丁寧でなかった」
こちらも手がどんどん上がる。
意見を出し合う訓練生
1年次の目標は、まず自分を知ること。
そのためにも、こうして皆から様々な意見をもらい、それを基に、何が自分は得意で、何が不得意なのか、またそれを修正していくにはどうすればいいか考えることは重要なプロセスになる。
自分の長所、短所、特徴を知っておくと、将来、企業の方に伝える際に、とても役に立つのではないだろうか。
~ほめて できること増やす~
5月31日、ポステック科研修2日目。
午後の活動は麺ギフト会議。
麺製造科が製造している麺を、訓練生の保護者の方々にお中元ギフトとして、案内を送る。
3人班で、まずパソコンを使って麺販売価格表を作成する。
一個あたりの商品の利益を多くするべきか、少なくするべきか、頭を悩ませながら、完成させることができた。
次に、お中元ギフトの商品名を考える。しかし、なかなか良いアイデアが浮かばない。
職員から「せっかく班になっているから、どんどん思いついたことを言っていこう」と助言を受けた。
すると、うどん、そうめん、ちゃんぽんが入った種類豊富な商品は、「バラエティー豊か」「まんぷく」「食いしん坊」、そうめんが多く入った商品は、「ひんやり」「夏」というキーワードが出た。
1人で考えると、頭がいっぱいになってしまいがちだけれど、皆で考えることで、それぞれの断片的な言葉が形になっていく。
商品名の案を出す訓練生
次にプレゼンの原稿準備。
決定した商品名や麺販売価格表の内容に関して、なぜそのようになったのか、後日、職員にプレゼンテーションをしなければならない。自分たちの考えた商品セットの良い点、工夫した点を職員にアピールする絶好の機会となる。
ある訓練生は、すべての文末を「○○だと思いました。」にしていたが、ここでまた職員から助言を受けた。大切なのは、商品を売る立場であること。「思いました、より、○○だからです、とか、言い切った方が聞き手には伝わりやすいかもしれない」。
発達障がいの方は、自分以外の他者の立場に立って物事を考えたり、想像したりすることに難しさを感じるという。そのため、販売する側という、特定の立場に立って文章を考えるのは、大切な訓練になる。
しばらくして、その訓練生の書いた原稿を見させてもらうと、文末が、「○○にしました」などに変わっていた。
職員も「立場が、がらりと変わりましたね!」とほめる。
2日間の研修を受けて気づいたのは、事あるごとに職員が訓練生を「ほめる」こと。
発達障がいを持つ訓練生の多くは、今までの人生で、ほめられることが少なかったり、常に周囲の人と比べられたりして、自己肯定感が低いという。
ほめられることで、できないと思っていたことが、実はできるということを実感したり、できなかったことも、自分事としてしっかり受け止めることができる。また、将来、様々な壁にぶつかったとき、それを乗り越えていく力にもなる。
職員は、「2年間かけて彼らのできることが増えて、成長を感じられるのが嬉しい」と話した。