私たちの話2021 / 07 / 10

窮屈だった「成長」という言葉を、柔らかくほどいてくれた出会い(インターン記vol.2)

就職を目指して通う場所へ

商店街の一角にある、ベージュの新しい建物。階段を登ると、ロッカーが並ぶ廊下にあたり、20歳前後の若い人たちがロッカーと教室の間を行き来しています。
私を見かけて「こんにちは!」と挨拶してくださる方々は、見慣れない姿に「どなたかな?」と疑問に思う様子が表情に垣間見えながら、初対面であっても縮こまる様子がありません。その声はとてもハキハキとして大きく、緊張しがちな私は咄嗟に「私もちゃんとしないと!」と思い、挨拶の声が気持ち大きくなりました。

ここは、主に一般企業での就職を目指す障害のある方が通う建物です。建物内には4つの事業所が入っていて、それぞれの事業所によって受けられる支援は異なります。

画像1

そのなかの1つ「長崎能力開発センター ポステック科」からインターンさせていただくことになりました。主に高等学校を卒業して間もない発達障害のある方が2年間通うところで、1年生・2年生が6名ずつ在籍しています。

先ほどの廊下の雰囲気から、「しっかり挨拶しないと!」と感じていた私は、ポステック科に入ると背筋を伸ばして自己紹介をしました。
私の挨拶に、「よろしくお願いします!」と返してくださる声がまたきっちりと揃っていて、私よりもずっとしっかりとした様子に圧倒されてしまいました。 9時頃になると学年ごとに朝礼や掃除をして、プログラムが始まります。

この日は職員さんの進行で、「頼みごとをする」「相手のいうことに耳を傾ける」「不愉快な気持ちを伝える」といったスキルについて各自が考えました。様々な場面において「自分はできる」「自分は少し苦手」などと自分を見つめたあと、今後上手になりたいこと、練習したいことについて、具体的な場面を思い浮かべながらみんなで考えました。

日々ここへ通うなかで、それぞれの「得意なこと」「苦手なこと」が顔を出します。遅刻をせずに毎日来ること、相手に聞こえる声で挨拶をすること、相手の目を見て話すこと、失敗を正直に報告すること。毎日その日を振り返って言葉にして、自分の苦手なことと向き合い、明日に繋げる日々。時には、過去に学校や家でうまくいかなかったことについても見つめる時間となります。

画像2

利用者さんと一緒に振り返りシートを読みながら内容についてお話した初日の私は、「もし自分がポステック生なら、こんなにも毎日自分のことを見つめることができるだろうか。」と考えました。
そして、「果たして本人が努力しなければならないのだろうか。企業が変わるべきなのではないか。」「辛いことに向き合ってまで、『福祉の中で働く』ことを選ばずに一般企業で働きたいのはなぜなのか。」というような問いが頭にモヤモヤと浮かんでしまいました。

そのモヤモヤは、少しずつ、利用者さんたちが溶かしてくれることになります。

ディスカッション

プログラムの中に、じっくりと時間をかけてディスカッションをしながら、多様な価値観に触れる時間があります。私もディスカッションに加わりました。

「どのような暮らしをしたいのか」というテーマで話をすると、「変化の多い生活は、覚えるのが大変そうなので嫌です。」「おすそ分けの文化など、地域の人との交流が好きで、にぎやかな生活をしたいです。」「都会は空気がきれいではなさそうなので、田舎で生活したいです。」など、希望する生活やその理由は人それぞれ。
「自分がどのような働き方をしたいのか」「どのような仕事に興味関心があるか」というテーマで話す時間もありました。「自分のアイデアを活かしたいです。」「一つの分野を極めてプロになりたいです。」「ありがとうと言われるのが嬉しいので、人の役に立つ仕事をしたいです。」「早すぎても遅すぎても辛いので、自分のペースで働きたいです。」

画像3

こうしてそれぞれの考えを深め合い、やりたい仕事をノートに書きだしたり調べたりしている方もいます。皆さんと話しているうちに、それぞれが自分のことをしっかりと見つめ、得意なことを伸ばしながら、将来自分の好きな仕事をして生きていきたいのだ、という強い意志を感じました。

「就職」を考えることについて、きちんと自己を振り返ることなくなんとなく後回しにしてきた私は、その輝きがだんだんに羨ましくさえなってきて、尊敬の念を覚えました。

「うまくいかないこと」を振り返る

初週の金曜日。一週間を振り返ります。
ある一人の利用者さんの今月の目標は「感情をコントロールすること」だといい、今週はしっかりできたかどうかを振り返りました。
その方は、出会ってわずかの私には感情のコントロールが苦手なように見えません。しかし、先日、イライラする気持ちを溜めてしまい、それが表出して支援者の話を聞けなくなることがあったといいます。
一緒に振り返りをしていると、その週にイライラした時のことを具体的に話してくださいました。職員さんなどに相談しながら過ごすことの大切を確認して、「今週はイライラを溜めずに過ごせました。」と嬉しそうに言う笑顔が印象的でした。

2016.04.27-蜊鈴ォ俶・髫」莨・IF7_0765

うまくいかなかったことを振り返るには痛みを伴うけれども、それはただ辛いだけではないのかもしれない。本人が自分のことを知り、できることやできないことを人に伝えながら頼る力を身に付け、「生きやすく」してくれるもの。その笑顔は、私にそう感じさせました。

働く先輩の姿

ここでのインターン最後の週。ポステック科を卒業して、宅配便などの輸送に関わる事業を行う会社に就職した方を訪問しました。大きな倉庫に集積されてきた小包や段ボールの宛先を見て、地区ごとに振り分けます。他の従業員の方と笑顔でやり取りをしながら、手慣れた手つきでどんどんと荷物を振り分けていました。
お仕事を始めて6年目。今のお仕事は「楽しい」と言います。理由をお聞きすると、「みんなに頼りにされていて。」とおっしゃっていました。
「宅配」は私にとっても身近なもの。たくさんの荷物と、見慣れた制服に身を包んだ彼らの仕事ぶり、そして誇らしげな表情はとても輝いて見え、素直に「かっこいい」と感じました。

「希望の職業」

今からおよそ40年前に入職され、知的障害者の就職支援をしてきた阿部百合子さん。支援を始めた頃、本人たちの「バスの運転手になりたい」「歌手になりたい」という声を「夢」と考えて、別の現実的な職業を提示してきたといいます。ところが、はじめの年に就職を支援した方々がどんどん離職していきました。その原因を調べていくと、本人たちが心から納得のいく職業に就いていなかったことでした。
阿部さんは、支援を振り返り、改善を試みます。「バスの運転手さんになりたい」という方であれば、本物のバスの運転手さんに会い、「憧れ」の運転手さんから、免許が必要なことなどを教えてもらう。そうして「いきなりはなれんとやな」と感じた本人が、「夢」の職業から、「希望」する職業を考えるようになる。支援者が答えを提示するのではなく、自分で仕事を探す体験をできるような支援に切り替えました。

画像5

希望する職業には、誰しもが就けるわけではありません。それでも、「知的障害者は働けない」と考えられていた時代から、共に働く社会へと変化してきました。一般企業に就職するためには、とにかく本人が厳しい訓練を乗り越えなければならなかった時代には、実際に働いて活躍する様子を見せる本人たちが「社会」を変えてきました。そうして、「裏方」の仕事のみだったものが「表」の仕事まで、職種はずっと幅広くなり、企業の理解やそれを支える仕組みも進んできました。

就労支援の現場では、「これからもっともっと、本人たちの挑戦と社会の変化を進めていこう、企業や地域と繋がっていこう」という意気込みを感じました。

「成長する」という言葉

ひたすらに頑張り、辛いことに向き合ってまで、「福祉」を飛び出して働きたいのはなぜなのか。

そんな疑問は、実際に働くことを目指す方、働く方の輝きを前にして、少しずつ、柔らかく溶けていきました。「やりたい仕事」を見つけて、それに向かって努力をするということに、障害の有無は一番に考えるものではないはずです。

「成長する」「自分が変化する」。そんな言葉は、ときに義務感をもって若い自分に降りかかってきて、少し疲れを覚えてしまいます。しかし、この3週間でたくさんの「成長したい」「変わりたい」に出会ったとき、「成長する」「変わる」という言葉が、窮屈なものというよりもっとポジティブなものとして、自分の中にすとんと落ちるような感覚がありました。

今回出会った皆さんが、1年後、2年後に働いている姿をぜひこの目で見て、仕事のことをたくさん聞きたい。わずか3週間の関わりのなかでこのような強い気持ちを持った自分に驚きさえ感じる、「変化」の多いインターンです。