私たちの話2021 / 07 / 07

今と将来との繋がりが見えないとき、会いたいと思える人との出会い(インターン記vol.3)

プロ和太鼓チームの練習へ

冬も本番となり、吐く息が白く染まる山の上の体育館。毎日朝早くから集まってミーティングをする方々に出会いました。
「今日は午前中にストレッチと基礎練習から始めます。」「そのあとの口唱歌は〇〇さん中心でやってください。自分たちは明日のリハーサルをします。」「午後は……」と、一日の予定を確認していきます。
「山本さんも一緒にストレッチからやりましょう。」と、練習に混ぜていただくことになりました。

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彼らは、世界中を飛び回るプロの和太鼓チーム「瑞宝太鼓」のメンバーです。演奏会は年間約100回にものぼり、迫力ある演奏と活き活きとした姿で世界中の人々を惹きつけます。私自身、以前メンバーの演奏を客席から堪能し、身体に響く音に心を揺さぶられたことがありました。
メンバーには全員知的障害があり、就労継続支援A型という形で福祉の支援を受けながら、彼ら自身の各地での演奏会や、高齢の方や子供たちなどに太鼓を教える講習会の収入で生活するプロのチームです。

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ストレッチをして身体を軽く動かした後、太鼓を円形に並べて全員が向き合います。私は団長が打つ手本の響きに鳥肌を立てながら、バチの持ち方、構えから基礎の打ち方を教えていただきました。全員での基礎練習が始まると、ストレッチ中の和やかな雰囲気からは一変したメンバーの真剣な表情に圧倒されます。

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基礎練習が終わると、一部のメンバーは翌日に控えた小中学校での演奏に向けてリハーサルを始めました。「夢大使」という法人の活動で、演奏を披露するとともに、メンバーが自身の生い立ちのことや障害のことなどを語ります。

翌日の本番は、メンバーの自己紹介と語りから始まりました。メンバーが生い立ちのことや障害のこと、太鼓との出会いや太鼓への想い、プライベート生活のこと、今後の目標などを語ります。語りのあとに演奏が始まると、小学生たちは迫力ある音と目にも止まらぬ速さの手の動きに驚いて、隣同士で顔を見合わせています。体を乗り出すようにして最後まで聞き終わると、体育館は大きな拍手に包まれました。

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演奏後には太鼓体験が行われて、団長とのセッションのようにして小学生が太鼓をたたきました。太鼓に合わせてぴょんぴょんと飛び上がっている子、「私もやりたい!」と順番を待ちきれない子が大勢います。興奮した子は、「楽しかったです!!」と私にも話しかけてくれて、想像を超える盛り上がりとメンバーや小学生の表情に心を動かされた瞬間でした。

チームを支えるスタッフとの出会い

舞台の成功の裏側には、メンバーの活動を支える南高愛隣会の職員さんがいます。その一人、吉本結羽子さんと初めて出会った朝。メンバーと合流する前の吉本さんは、「福祉職員」として、職員のミーティングでメンバーの体調や通院予定などを確認していました。しかし、メンバーと合流したあとでは、その姿からは打って変わり、リハーサルで演奏本番の流れやメンバーの動きを確認する「瑞宝太鼓スタッフ」の顔になっています。
演奏会本番直前。吉本さんは、太鼓の積み下ろしに始まり、会場のセッティング、機材の調整、音の響きや立ち位置の確認まで、メンバーと話し合いながら担っています。その姿はプロのスタッフそのもので、「こんな仕事を福祉の職員さんがするのか!」と驚かされるとともに、本番前にメンバーが話していた「吉本さんはかっこいいです!」という言葉に納得して憧れを抱きました。

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吉本さんに、南高愛隣会の職員さんとしてどのような現場を経験してこられたのかお聞きしてみました。南高愛隣会には様々な事業所があるなかで、なんと入職してから12年間、ずっと「瑞宝太鼓スタッフ一本」だといいます。

吉本さんは、長崎の高校を卒業した後に熊本の専門学校へ進学し、体操やエアロビクスなどのインストラクターといった指導力を身に付ける勉強をしてきました。
幼い頃から地元の和太鼓チームに入っていたことから、心のどこかで「和太鼓に携わりたい」という気持ちがありつつも、別の就職活動をして上手くいかずにモヤモヤとしていたといいます。そのようなときに偶然、地元和太鼓チームの先生だった石原治基さんから、石原さんの勤める南高愛隣会で「太鼓チームのスタッフを見つけている」という連絡が入りました。実習を経て関係を深め、障害や福祉のことは全く知らないながらも、就職を決めました。
和太鼓の知識に加えて、専門学校で身に付けた「伝える力」「教える力」は、メンバーが講習会で太鼓を教える力を上げることに繋がっています。
「入りたての頃は、自分のできることをがむしゃらにやってきたけれど、大人になって振り返ると、なるべくしてなった、やってきたことは無駄じゃなかったなと思います。
私はほんとに何もできなくて。好きなこと、和太鼓を極めて、好きなことを一緒に勉強しながら障害のある人に教えて、それを障害のある人が別の人に教えている。高齢の方や子供たちの生きる力になっている。
得意なことを極めるのは大事だし、伝えるのって大事だな、社会のために役に立っているんじゃないかなって。」

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「これをやってみたい」という気持ちは、誰しも心の中に小さく浮かんでは、すぐに消えていってしまうものなのかもしれません。大学を休学して福祉の現場へ飛び込んで来た私に対して吉本さんは、「やりたいことをやるって良いことですよ。巻き戻せないですからね、今生きているこの時間。無駄なことってないですもんね。」と熱を込めて話してくださいました。

チョコレート屋さんへ

路地を入れば昔ながらの建物が並ぶ城下町・島原に、おしゃれなお菓子屋さんがあります。「久遠チョコレート」というお店で、知的障害のある方々がブランドチョコレートを作っています。

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製造室に入ると、前日に作られた色とりどりのチョコレート、銀色の大きなボウルや型などが並べられていて工場見学に来た気分です。

「爪を見せてください、手洗いは済んでいますね。エプロンもオッケーです。」と利用者さんに声掛けしているのは、入職して2年目の小林愛梨さんです。

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チョコレート作りが始まると、小林さんはボウルの中でツヤツヤのチョコレートをかき混ぜては温度を調整しています。利用者さんは、チョコレートに混ぜ込むドライフルーツを切ったり、出来上がったチョコレートを袋に詰めたりしています。小林さんは、自分のチョコレート作りを進めながら、利用者さんの様子を頻繁にみています。「〇〇さん、ちょっと疲れてきたでしょ~。」「〇〇さん、次はこれお願いしても良いですか?」と、休憩や作業の進み具合を確認しています。

私はまず、チョコレートを流し込む型を消毒してクッキングシートを敷く作業から始めました。
要領を得ている利用者さんが私にやり方を教えてくださいます。お手本を見ていると簡単に見えますが、私がやってみるとクッキングシートが綺麗にはまらず、利用者さんが8つ完成させる間に私は2つしかできません。あまりの早さに驚かされます。

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そうして作業を進めている間にも、小林さんの明るい声掛けが届きます。「〇〇さん、すごく上手!」「〇〇さんが洗い物してくれてすごく助かります、ありがとうございます!」褒められた利用者さんは満面の笑みを浮かべて嬉しそうにしています。

小林さんは、お菓子作りを専門に学んでパティシエなどを目指す高校を卒業しました。就職に迷っていたとき、南高愛隣会にパティシエの採用があることを知り、障害のことや福祉のことを全く知らずに就職を決めます。

今は製造室での支援を明るく行う小林さんですが、初めは知的障害のある方を支援すること自体に戸惑っていました。その戸惑いが伝わったのか、そのうちに利用者さんから、「えぇ、今日小林さんしかいないの~、つまんない。」などと言われてしまいます。小林さんはショックを受けますが、そこで小林さん自身が「利用者さん個々人についてきちんと理解していなかったことに気づかされた」といいます。

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友人に、「自分なら福祉(の仕事)は絶対続かない」と言われたことがある、という小林さん。「私も最初はそう思ったけれど、やってみないとわからない。」と感じたといいます。「利用者さんが昨日より今日、少しでも何かができるようになったときに、私も嬉しくて。たくさん褒める言葉をかける。そうすると利用者さんがものすごく喜んでくれて。利用者さんの自信にも、私の自信にも繋がります。」今では、日々成長する利用者さんの姿に仕事のやりがいを感じています。

「人生は巡り合わせの連続」

太鼓を学び、福祉の仕事へ辿り着いた吉本さん。お菓子作りを学び、福祉の仕事へ辿り着いた小林さん。
もしかしたら福祉の仕事とは無縁の人生を歩んでいたかもしれないけれど、今キラキラと福祉の世界で輝いているお二人に出会いました。

「どんな仕事をしたいですか。」
と、お二人が学生時代に尋ねられたなら、「福祉の仕事」とは答えていなかったはずです。

「仕事を決める」ということのハードルは、私にはずいぶん高く感じられます。
選択が許されていることの幸せを感じながらも、将来について悩んでは頭を抱えてしまいます。「どの選択が良いのだろうか。」「後悔はしないだろうか。」「将来のために今何をすべきなのだろうか。」と、事あるごとに悩みは尽きません。
吉本さんと小林さんに出会ったとき、自分の想像する「仕事」より、人生の先輩たちの「仕事」はもっともっと広がりを持っていることを感じさせられます。「福祉の仕事」を選んだお二人は、私が想像したことのない軌跡を辿っていて、「人生は巡りあわせの連続」というよく聞く言葉に実感をもって触れた心地がしました。思い返してみると、今までの自分の進路もそうであったように感じます。

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今を精一杯楽しむこと。上手くいかないことであっても、どこかで何かに繋がるかもしれないこと。言われ尽くされたことではあるけれど、それを信じられなくなったとき、お二人を思い出してお会いしたくなるような気がします。お会いすればまた今の自分を肯定できるような、そんな予感がする大切な出会いでした。