研修日記 生活介護(TERRACEやまびこ・TERRACEなかやま)
事務総合職として南高愛隣会に入社し、福祉の世界に飛び込んで約1か月。
採用・広報担当の私は、各事業所を巡り、実際の現場を見て学ぶ、現場研修を行うことになりました。
これまで福祉について深く勉強したこともなく、障がいのある人ともあまり接したことがなかった私。
そんな真っ新な視点で、これから約3か月の間、現場研修で起こった出来事や、そこで感じた思いをありのままに綴っていきたいと思います。
~乗馬で、毎日の生活を豊かに~
5月16日、TERRCEやまびこ研修1日目。
TERRCEやまびこは諫早地区の拠点「LOCAL STATION FLAT(ローカルステーションフラット)」内にある生活介護の事業所。主に知的障がいや、自閉症などの強度行動障がいを持つ方々が利用している。
穏やかな日差しが降り注ぐ中、私たちが向かったのは、やまびこから徒歩ですぐの厩舎。
厩舎の周りを山や畑が取り囲み、辺り一帯にはのどかな風景が広がっている。
これから、乗馬の前に、利用者さんたちが取り組むのは、「ちからこぶ」と呼ばれる活動だ。ちからこぶとは、馬のボロ取り、つまりは、糞の運搬作業のことである。ちからこぶはその名の通り、力のいる作業だ。砂に紛れてあちらこちらに転がっているボロを火ばさみで拾い、かごに集め、袋に入れる。
「ちからこぶ」に取り組む利用者
スコップで数種類の材料を混ぜて、2匹の馬(ブラックベリーと、アレクサンダー)のえさを作る利用者さんもいる。
そんな様子を遠目で見守っているのは、馬が大好きで、ホースセラピー研究センターに所属する職員だ。
「馬を調教するには、馬を知ることが大切だ」と語る職員
職員によると、利用者さんが馬と触れ合うことには、2つのメリットがあるという。1つ目は健康維持しながら、楽しむことができるということ。
「昼間に思い切り体を動かしておくと、夜はぐっすり眠れます」。
この2匹の馬は、セラピー用の馬として調教されている。人が好きで、穏やかな馬であるため、利用者さんも自然と心が癒されるのだろう。
2つ目は、自分の役割を持つということ。「馬のお世話は、毎日同じことの繰り返し。○○をして、と職員に促されなくても、主体的に行動できます」。
特に自閉症の方々は、決められたルーティーンの中で動くことを得意とする。生活介護では、基本的に利用者さんは、職員に助けられることの方が多いが、乗馬では、利用者さん自らが動く。そこが魅力なのだろう。
作業が一通り終わると、乗馬が始まった。交代で乗る人と引く人に分かれ、馬場を2周する。
乗っては降りて、また次の人、と次々進む中で、最も引き付けられたのは、利用者のMさんの表情の変化である。
朝、自宅に送迎に伺った時、Mさんは、行きたくない、と玄関からなかなか出てくることができなかった。やまびこに着いてからも、少し表情が暗いように見えた。
そんなMさんが、馬にまたがった瞬間、ふわっと、顔を綻ばせたのだ。
「馬ってすごい、」そう思わされた。
私も乗ってみたいなーと心の中で念じていると、最後に、乗ることができた。
のしのしと馬が歩を進めるたびに伝わる振動が心地よく、馬と一体化したような、ゆったりとした気持ちになる。
福祉と馬、もっと言うと、人間と馬は相性がいい。
~歩行から見える個性~
5月17日、やまびこ研修2日目。
午前の活動は、ふれあい歩行。
やまびこから車で5分ほど行くと、ふれあい広場についた。
芝生が一面に広がり、散歩にちょうど良い。
やまびこ職員は、「広いので、気兼ねなく歩けます」と笑顔を見せる。
やまびこには、強度行動障がいの方が多い。
周囲の環境が本人に合わなければ、大きな声を上げて走り出したり、自傷してしまったりすることがある。
他に歩いている人も少なく、静かな環境で、誰にも遠慮しなくていい。ここは、そんないいことずくめの場所である。
利用者さんに付き添う職員(写真右)=ふれあい広場
利用者のKさんは、車から降りるとすぐに駆け出して、早歩きを始めた。
後を追っていると、その姿は徐々に遠のいていき、いつの間にか見えなくなった。
次にやってきたのYさん。周辺の草をむしっては、捨て、むしっては、捨て、を繰り返している。
その後ろからやってきたのは、Iさん。テレビの有名なCMを口ずさんでいる。とても楽しそう。
散歩する利用者さん=ふれあい広場
広場をぐるぐる回るだけだと思っていたら、そこに見えたのは、利用者さんそれぞれの個性だった。
~1人1人に寄り添う 音楽教室~
5月18日、TERRACEなかやま研修1日目。
TERRACEなかやまは「LOCAL STATION FLAT」内にある生活介護の事業所で、1人での食事や移動が難しい身体障がい者や、重度の知的障がい者が利用している。
午後の活動は音楽教室。
ほとんど全員がホールに集まった。
職員がタンバリンや、鈴、ベルを利用者さんの手に握らせる。
皆で「パプリカ」、「上を向いて歩こう」などの音楽に合わせて、踊る。
踊るといっても、体を揺らしたり、手をたたいたりするだけだ。
音楽が流れても、無表情で、何をしているかわかっていない様子の方も多い。
「音楽教室って、利用者さんにとって本当に楽しいのだろうか、少し難しすぎるのでは、」と考えてしまった。
一方で、周りの職員は彼らと視線を合わせたり、しゃがんで話しかけたり、手をとって手拍子をさせたりする。
しばらくその様子を見ていた。
すると、だんだん利用者さんの表情が明るくなってきたのだ。
声を出して喜んでいる人もいる。
音楽教室で踊る利用者さん
音楽教室で得られる体験は、音楽に合わせて踊ったり、歌ったりすることだけではない。一見、見えにくいけれど、その中には、集団の活動に参加したり、音楽を聞いたり、体を動かしたりすることも含まれる。
私たち支援する側にとって大切なのは、
体験の外側ではなく、内側の部分に注目すること。
その中で、利用者さんそれぞれの達成したい目標や、ねらいとするものに気づき、寄り添うこと。
そうした利用者さんへの思いがホール内で共鳴し、笑顔の輪が広がっていく。
~自宅訪問 手探り支援~
5月19日、なかやま研修2日目。
なかやま職員と朝から向かったのは、Uさんのご自宅。
Uさんは、自宅から出ることが難しく、週に一回、なかやまの職員が訪問している。
「今日はドライブに誘ってみようと思っています。」
職員は、そう微笑みながら、玄関の扉を開けた。
玄関からすぐの階段を上り、二階の部屋に入る。
そこには、ベッドに寝そべり、うつろな目をしている若い男性がいた。Uさんだ。
思わず、どう声をかけたらいいんだろう、と不安になった。
そんなUさんに職員は、積極的に話しかける。
「Uさん、今日は、私たちとドライブに行きませんか?」
何度も車の絵カードを見せ、行きましょう、と手を引く。
しかし、その表情は曇ったまま。
あきらめて、Uさんが好きだというポケモンの動画を見ることになった。
動画が始まって5分くらいたったころ、ピカチュウが出てきた場面で、Uさんは嬉しそうな声を上げた。
「ピカチュウかわいいですね」と話しかけると、少し表情が柔らかくなったように見えた。
動画が終わると、職員は、持ってきたポケモンのカードを広げ、「どのポケモンが好きですか」
と、穏やかな物腰で尋ねる。
答えないUさんに、「今度、好きなポケモン教えてくださいね」と言って、カードを片付けた。
なかやまで、自宅訪問を行っているのは、Uさんだけ。
まだまだ全体像が明確でない中、職員は利用者さんの表情や、肌で感じたものを基に、探り探りで支援方法の糸口を見出していく。
どれほど技術が発展し、利便性の高い世の中になっても、生身の人間の気持ちだけは簡単にコントロールできない。だからこそ、私たちは、どんな時でも焦らず、慌てず、心に余裕を持つことが大切だ。
利用者さんと笑顔で接する職員 =なかやま